トルコの読者を熱中させる日本人作家、村上春樹の新作短編集『女のいない男たち』のトルコ語版が刊行された。さてこの本はどのように重要なのだろうか。そしてどのようにして日本のある町の抗議を引き起こしたのか?
1. ヘミングウェイの影響
トルコで愛読されている村上春樹の作品は時を置かずにトルコ語に翻訳される。英語より先トルコ語で発行された『女のいない男たち』との短編集はアリ・ヴォルカン・エルデミル氏により日本語原文からトルコ語に翻訳されている。ヘミングウェイの読者なら、あのアメリカ人作家が同タイトルの短編を出していることを思い出すはずだ。ヘミングウェイの影響を受けたこの村上作品の主人公は、タイトルが示す通り喪失のなかにある男たちだ。
2.電話が激しく鳴り響く
村上がビートルズの愛好家であることは『ノルウェイの森』でも見て取れる。そしてわれわれは、新作短編集に収録されている 『ドライブ・マイ・カー』 でもビートルズのディスコグラフィを巡ることになる(ある俳優が女性運転手に自分の人生を語り始めるストーリー)。一方でビートルズ(楽曲と同タイトル の)『イエスタデイ』は、お互いへのアンチテーゼのように振る舞う二人の大学生の暮らしの断片を扱う作品である(日本文化が日本の若者に与える影響を知るのに適した作品だ)。また、『独立器官』は恋の代償を支払うことになる医師・渡会の姿を描く。
『シェフラザード』のなかでは、村上による新しい千夜一夜物語の解釈がみられ、『木野』では事件は作者の好むロケーションの一つ、バーから始まり展開する。『恋するザムザ』では、カフカ好きへのサプライズに心の準備を。そして表題作の『女のいない男たち』では再び村上の好むシチュエーションがあらわれる。つまり、夜半に電話が激しく鳴り響き、事件が展開していく…。
3.町民が著者に抗議した理由とは?
『ドライブ・マイ・カー』に登場するたった一文、タバコの吸い殻を窓からポイ捨てした運転手への「たぶん中頓別ではみんなが普通にやっていることなのだろう」が物議をかもした。物語が最初に雑誌に掲載されたとき、町民は清潔さには特に気をつかっており、一同で町を清掃していることや、山火事対策に尽力していると述べ著者に抗議し説明を求めた。村上は謝罪にとどまらず、本に登場する町の名前を修正したのだった。
4.日本版千夜一夜物語
この短編集のなかで最も「クールな」物語は、トルコ人読者にも特に好まれる『シェフラザード』である。さらに村上自身の表現を用いれば、この物語はちょう ど『ノルウェイの森』や『ねじまき鳥クロニクル』に見られるように、物語から始まって長編小説に変わっていく。つまり今から読んで続編を待っていなさいということだ。
5.次の村上作品
村上にこの短編集を通じて出会うことになる読者は、続けてどの本を読むべきか?『ねじまき鳥クロニクル』は大長編なので読むのに時間がかかるが名作だ。また『海辺のカフカ』は作者の奇妙な世界を理解できるという特徴をもつ作品である。村上自身を知ろうとするのであれば、エッセイ集かつ回顧録でもある『走ることについて語るときに僕の語ること』もオススメだ(ドアン出版発行で書店で入手可能)。
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( 翻訳者:原田星来 )
( 記事ID:39606 )