エジプト:ドキュメンタリー演劇の可能性
2016年04月30日付 al-Quds al-Arabi 紙

■「ズィグ・ズィグ」は100年前にエジプトのある村に起きたイギリス人による暴行事件を再現する
■ライラー・スライマーン監督:文書資料は作家の想像力より強力だ

【カイロ:ラーニヤー・ユースフ】

第5回ダウンタウン現代美術フェスティバル「D-CAF」〔訳者注:Downtown Contemporary Arts Festivalの略称〕の実行プログラムへの参加を通じて、若手女性舞台監督のライラー・スライマーン氏は、「ズィグ・ズィグ」という演劇作品から、エジプトの「ナズラト・シャウバク村」に対する〔イギリス〕占領兵たちの侵害行為に関する新たな問題提起を行った。この作品は、100年前に起きた話を再現したもので、イギリスによるエジプト占領期のことである。

〔訳者注:D-CAFの公式HPの解説によれば、「ズィグ・ズィグ」というタイトルは、イギリス軍兵士たちが村に押し入ったとき、村の女性が恐る恐る「ガチョウ料理でもお出ししましょうか?」と尋ねたところ、兵士が「jig jig」(英語の俗語で「性交」を指す言葉)と答えたことに由来する。すなわち、外国人兵士による女性の暴行と、それを意味する英語の俗語をアラビア語で表現するという屈折した権力関係を象徴している。〕

このときイギリス軍兵士たちは、「ナズラト・シャウバク」と呼ばれるギザ県近郊の小さな村を暴力的に押し入った。後に村の住民たちの証言を調査するため、軍事裁判が開かれた。それによれば、兵士たちはこの村を襲い、放火し、村の住民たちを脅し、村の指導者5人を処刑したという。証言のために召喚された証人の中には、イギリス軍兵士たちの手によって暴行された女性たちも含まれていた。

この事件に続く数ヶ月の間、ナショナリズム運動はこれらの女性たちの話を運動のスローガンや出版物の中で用いた。しかし間もなくこの事件は、独立に向けた政治的言説の中で脇に追いやられ、やがてこれらの女性たちは完全に忘れ去られてしまった。2004年から演劇分野で活動しているライラー・スライマーン監督は、本紙のインタビューの中で、ドキュメンタリー演劇について、そしてそれをエジプトで広めることの難しさについて語った。

Q:ドキュメンタリー演劇の脚本を書くにあたって何に惹かれますか?

A:どんなに作家が想像力を働かせたとしても、作家が書く内容が、「ズィグ・ズィグ」で用いられたような、実際の取調べファイルが私たちに与えてくれる演劇的な質の高さに達しないことがあります。また、それは実在の人々の物語からあふれ出すドラマのレベルにも達しないでしょう。記録された物語の詳細の方が、想像よりもはるかに認識しやすいのです。「ズィグ・ズィグ」では、本当にあった取調べ資料にもとづき、それからこれを演劇的に取り扱いました。私はこの話にドラマ的要素を一切加えませんでした。文書資料はそのまま用いられ、その内のいくつかの部分の要約をこの問題のイントロにしましたが、取調べ内容には手を付けていません。

また、この話には私たち自身の考えに関するドキュメンタリー的な要素があります。それは、私たちが社会として、この事件とどう向き合うかということです。私がドキュメンタリー演劇を行うことに本当に惹きつけられるのは、演劇的な質においてより高いレベルに到達するからなのです。

(後略)

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( 翻訳者:明石華乃 )
( 記事ID:40367 )