ビュレント・エジェヴィト著作サイト公開―没後10周年にちなみ
2016年11月08日付 Hurriyet 紙

 トルコの政治に方向性を与え、人々の心に大きな印象を残した重要なリーダーの一人であるビュレント・エジェヴィトが2016年11月5日に10周忌を迎えるにあたって、様々な追悼式典が行われた。その一部に私も参加してきた。

 エジェヴィトを追悼する式典の中でも特別だったのが、ラフシャン・エジェヴィト・ビュレント・エジェヴィト科学・文化・芸術財団が行った催しであった。SALT研究所は、ビュレント・エジェヴィトの残した1500近くの著作を一カ所に集めて、インターネットサイトを作り、10周忌に合わせて、以下のURL http://ecevityazilari.org/ でこれを公開した。このサイトでは、エジェヴィトの新聞記者時代のコラムや、政治家時代に様々な機会に書いた政治・文化・芸術に関する文章にアクセスできる。これは現在の記者や学者、学生のためになるのと同じくらい、これからの世代の人のため、非常に価値の高い情報源となる。このプロジェクトに尽力したすべての人々に感謝しなければならない。

■これはトルコの通貨なのか?

 私が参加した追悼式典では、あらゆる年代の人がエジェヴィトを非常に懐かしんでいた。人々が最も強調したことは、エジェヴィトが誠実かつ謙虚な性格をしていたということだ。中年以上の人は若者に向けて、彼のこの2つの側面について熱弁をふるっていた。

エジェヴィトは真に誠実な人柄をもっていた。政治の場に「サユン」(「敬愛なる」)という敬称を持ち込んで定着させ、誰に対しても敬意を払い、私欲という概念を知ることはなく、政治においてその方向性の一貫性を重視し、選挙の票集めのために自らのその一貫した姿勢から外れることはなかった。

 民衆主義者であり、民衆のように生きた人であった。普通の市民がどの水準で暮らしていたとしても、エジェビットの暮らし方も、それと同じだった。ビュレント氏も、妻のラフシャン氏もこの暮らし方を変えることはなかった。資産や所有物、そして贅沢な暮らしには見向きもしなかった。所有するものは全て、政治のため、貧しい人々のため、使ったり寄付したりしていた。

 エジェヴィト夫妻は、お金とは無縁であった。それがどれほどかというと、ビュレント氏は自国トルコのお金をさえ知らないほどだったのだ。ある遊説の旅の途中アナトリアの町で、人々が鼓笛でエジェヴィトの乗るバスの前を遮った。彼はバスから降りて、短い演説を行ったのだが、そのあと、伝統にのっとって、太鼓の奏者にお金を渡すように御付きの人に指示された。ラフシャン夫人にお金をくれ、と言うと、夫人は、市場に新しく出たばかりの20リラ札をエジェヴィトに渡した。しかし彼は新紙幣を表裏ひっくり返して眺めると、我々新聞記者にこう聞いた。「これは本当にトルコの金なのか?」と・・・

 エジェヴィトはこんなにもお金から遠い人物であった・・・

■世俗主義と空軍パイロット

 ビュレント・エジェヴィトの民主左派思想について書こうとしても、このコラムに全てを収めることはできないだろう。しかし、我々が今経験している、問題に満ちたプロセスを考える時には、エジェヴィトの予見と警告を思い出さねばならない。

 一つ目には、「個人の信仰の自由を尊重した世俗主義」という理解、そして「世俗主義の原則」に付与した重要性である。エジェヴィトはかつて世俗主義について「世俗主義はトルコの’アキレス腱’である。ここをやられると瓦解してしまう」と表現した。ほかにも、民主左派党の基本原則の一つとして、「我々が必要とするのは信仰に敬意を払う世俗主義であるが、世俗主義は決して無信仰を意味するのではない」というコメントをした。

 7月15日に起きた流血のクーデタ未遂は、エジェヴィトがどれほど先見の明のあるリーダーであったか、再確認させられる出来事となった。世俗主義国家トルコに対してなされたあの攻撃は、直接この共和国を滅ぼそうと意図していたことが明らかになったのだ。

 世俗主義を基礎とした科学的な教育の重要性は、ギュレン派として逮捕されたトルコ空軍パイロットの証言によって、再認された。彼らがまだ中学生の時にどのように洗脳され、言いなりになるロボットのようにされたかが、一つ一つ証言されたのだ。こうしたプロセスを経てどのように流血のクーデタへと発展したのか、私たち全員が目撃した。ギュレン派の民間教育機関でそうであるように、警察・司法機関・税務署・トルコ国軍・士官学校、そして軍事高校で、どのように組織され、トルコを崖の淵に追い込んだかを、我々は目撃したのだ。

■ユーゴスラビアを例に警告

 思い出されるべきビュレント・エジェヴィトのもう一つの警告は、ユーゴスラビアの事例である。エジェヴィトは、1980年代末から1990年代初頭以降、トルコにPKK(クルディスタン労働者党)のテロや、民族主義及び宗派主義の政治、そしてイラクと中東諸国情勢の展開といった問題で常に警告を出していた。PKKのテロがトルコを分裂させる目的であるとし、これに基づく民族主義的政治や宗派主義的政治、分極化、イラクの分裂といったことがトルコに最も影響を与えるといつも言っていた。この種の政治や展開によりトルコがバルカン化し、ユーゴスラビアのように分裂する、と常に注意を促していたのだ。

 トルコは現在、多くの方面から、こうした根幹にかかわる攻撃にさらされている。我々が今通り過ぎているプロセスがもたらすリスクは、エジェビットが、その予見と警告において、正しかったことを示している。

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( 翻訳者:章 由実 )
( 記事ID:41701 )