レバノン:アラブ連盟がレバノン政府に対しヒズブッラーの抑制を求める
2017年11月21日付 al-Hayat 紙
アラブ連盟事務総長を出迎えるレバノン大統領(写真提供:AP通信)
■レバノン:アラブ連盟がレバノン政府に対しヒズブッラーの抑制を求める
【ベイルート:本紙】
アラブ連盟は外相会合を開き、「ヒズブッラー」が「先進兵器や弾道ミサイル兵器を用いてアラブ諸国のテロおよびテロ集団を支援」しているとする決議を採択し、レバノンに対するアラブ諸国の要求をまとめた。レバノンの代表団は、同決議がヒズブッラーを「テロ組織」と形容したことを受けて態度を保留した。サアド・アル=ハリーリー首相が辞任を発表してからレバノンが直面している政治危機に対処するにあたり、今回の決議が話し合いの主軸となることが期待される。ハリーリー首相は辞任表明時の声明で、地域の紛争から距離を置くというレバノンの政策をヒズブッラーが遵守しないことについて遺憾の意を表明していた。
ハリーリー首相は今日(21日)にエジプトのアブドゥル=ファッターフ・アッ=スィースィー大統領と会談を行い、今回の危機の地域的側面および自身の辞任をめぐる状況について協議する。その一方で、アラブ連盟のアフマド・アブー・アル=ガイト事務総長は昨日(20日)ベイルートを訪問、ミシェル・アウン大統領やナビーフ・ビッリー国民議会議長と会談を行い、両者に対し今回の決議採択の経緯・背景を伝えた。アウン大統領およびビッリー議長はこの決議について、ヒズブッラーが「レバノン政府内の当事者」であると記述することで同党の行動に対するレバノン政府の責任を示唆しているとして、アブー=アル=ガイト事務総長に対し異議を申し立てた。これを受け、同事務総長は「決議の意図」について、ヒズブッラーに自制を説き非アラブ勢力と同盟を結ぶことをせずアラブの一員として振る舞わせることを、レバノン政府に要求するものであると明らかにした。
ハリーリー首相がアウン大統領に対して正式に辞任を届け出た後の新政府発足に向けた政権基盤に関する協議のための連絡・調整が、同首相のエジプト訪問を終えてのレバノン帰国後に開始されることが見込まれる。この連絡・調整過程において今回のアラブ連盟の決議が及ぼす影響を鑑み、レバノン政府指導部数名の間では同決議が昨日(21日)の議題に上った。政治情勢に詳しいある消息筋が本紙に伝えたところによると、アウン大統領やビッリー議長をはじめとする複数のグループは、もしハリーリー首相にその意思があるならば、新政府発足に同首相を指名することを考えている。
アブー=アル=ガイト事務総長はレバノン政府の当局者らに対し、「アラブ諸国はレバノンの社会構造とその特性をよく理解している。レバノンに害を加えようとする者など一人もいない」ことを述べ、今回の決議の中で「ヒズブッラー」について述べられた内容は2年前からアラブ連盟の首脳・外相級会合の決議の中でも述べられていたことを指摘した。一方、レバノン大統領府の広報室は、アウン大統領が「レバノンは現在一部のアラブ諸国で生じているアラブまたは地域の紛争に対して責任を負っていない。レバノンは誰に対しても攻撃を加えておらず、レバノンがこれらの紛争の代償を支払うこともあり得ない」と述べたことを伝えた。また、ビッリー国民議会議長を担当する広報室によると、同議長はアブー=アル=ガイト事務総長に対し、「昨今の出来事(に支払った/支払う代償)よりもサウジアラビアとイランの和解に支払う代償の方がずっと少なく済む」と述べ、「アラブ連盟はこれまでその決議において、パレスチナの解放に向けて抵抗する権利を確認し、レバノンがイスラエルに対し抵抗運動を行うことを支持してきた」ことを指摘した。同様の内容はアウン大統領からも述べられ、同大統領はアブー=アル=ガイト事務総長に対し「レバノン国民には、標的を探し続けるイスラエルに抵抗する権利がある」ことを伝えた。
アブー=アル=ガイト事務総長は連盟の決議内容について、アラブ諸国へのイランの介入、イラン製弾道ミサイルによるリヤド攻撃に言及し、これらのことを安全保障理事会議長に伝えるものであることを説明した。同事務総長はレバノンの不安を解消すべく、「レバノンの国土がアラブ―イラン間の紛争の舞台になることはありえない」と保証し、「レバノン政府への言及はヒズブッラーが政権当事者として参加していることを指摘する中で生じたものであり、レバノン全体を意図したものではない」と述べた。
ヨルダンの首都アンマンでは、アブドゥッラー2世国王がレバノンのファランヘ党党首であるサーミー・アル=ジュマイエル議員と会談を行い、その中で「レバノンが数々の課題を乗り越え、国家の統一性、主権、安全保障、安定の維持に取り組む中において、ヨルダンは100%レバノンと共にある」ことを確認した。
夕方、ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長は同党の部隊がシリア軍と共にシリア-イラク国境沿いのアル=ブーカマール検問所を制圧したことを話した後、アラブ連盟の決議について言及した。ナスルッラー書記長は、「ダーイシュ」がラーワ市解放と共にイラクで終わりを迎えたのと同様、シリアではアル=ブーカマール市の解放と共に終わりを迎えたのであり、ダーイシュに対する最終的な勝利宣言を行う日も遠くないと述べた。同書記長はさらに、「ダーイシュが陰謀を企て始めた頃から、我々は多数の司令官・幹部を送り込んできた。イラクでは戦闘員ではなく軍事専門家や作戦指揮官、軍事訓練指導官が必要とされていた。これらの戦闘では我々の側でも多くの死傷者が出た」と述べた。
ナスルッラー書記長は、「我々はイラクの状況の見直しを行う。我々が任務達成を確認しこれ以上イラクに我々の同胞(ヒズブッラーの戦闘員)が留まる必要はないと判断すれば、我らの同胞は彼らを必要とする別の場所に赴くだろう。イラクにおける最終的な勝利宣言を願いながら、我々は(必要な)措置をとっていく。このことは、アラブ連盟の外相会合で出された声明と一切関係なく、ダーイシュが皆の望む敗北を味わい、現在駐留している数のヒズブッラーの司令官・幹部がイラクに留まっている必要はもはやなくなったためである」と述べた。
ナスルッラー書記長は、アル=ブーカマール市の解放を軍事的快挙とみなし、同市がイラクのアル=カーイム検問所に隣接する国境沿いの街であり、ダーイシュが支配する唯一の街であったことにその重要性を認めた。また同書記長は、「米政権は過去数か月間、イラクとシリアをつなげさせまいとしてきた。シリアを分断しようとする目論見は失敗し、その計画に未来はないと言える」と指摘した。
ナスルッラー書記長は、「イランの革命防衛隊ゴドス部隊司令官ガーセム・ソレイマーニー少将は今回の戦闘のみならず数々の戦闘の現場で指揮をとった」として、謝意を伝えた。
アラブ連盟の外相会合の決議に関しては、ナスルッラー書記長は「ヒズブッラーをテロ組織と非難することは今に始まったことではなく予想の範疇であり、以前も耳にしたことがある。こうした非難が緊張を招くことはなく、ただ遺憾に思うのみである」と述べた。また同書記長は、「地域における米国の計画を失敗させた者は全員処罰を受けることになる。その処罰の形式の一つが、テロリストの嫌疑をかけられ起訴されるというものである。このリストは今後その長さを増していき、レバノンが受けたような脅し、すなわちテロリストとしてこのリストに掲載するという脅しに他国もこれから直面することになる」との見解を示した。
「弾道ミサイルを(イエメンに)手配した」責任を「ヒズブッラー」に認めるという件について、ナスルッラー書記長は「(会合に出席した)外相らがこの声明に合意したとき、彼らの手元には根拠となる事実があったのか」と疑問を述べ、ヒズブッラーが「先進兵器や弾道ミサイルどころか、拳銃一丁さえ送ったことはない」と否定し、「我々はイエメンにもバハレーンにもクウェートにもイラクにも、どのアラブ諸国にも武器を送っていない。我々が送った武器は、占領下にあるパレスチナに送ったコーネット(対戦車誘導)ミサイル等の武器と、シリアで我々が戦闘に使用するために送った武器のみだ」と述べた。
ナスルッラー書記長は続けて、「会合に出席した外相らはレバノン国民に対し、ヒズブッラーの問題を解決しなければレバノンの安定は脅かされると述べた」と指摘し、「レバノンの安全保障を脅かす最大の脅威はイスラエルによる占領であり、レバノンの解放に最も重要なのは抵抗運動である。レバノンには、いかなる形であれかつての内紛に後戻りするようなことはしたくないという、国民の強い意志が存在する」との見解を述べた。
ナスルッラー書記長は、「ヒズブッラーがリヤドに対してミサイルを発射した」ことを完全に否定し、「このミサイルの発射は我々と一切関係ない。これまで発射されたミサイル、そして今後発射されるであろうミサイルについても同様である。我々は何の証拠にも基づかないこれらの疑いを否定する」と述べた。
ナスルッラー書記長は、「レバノンにいる我々は皆、サアド・アル=ハリーリー首相の帰りを待っている。首相の帰国が何よりも優先されるべきことだからだ。我々の中では彼はまだ辞任していない。我々はあらゆる対話・協議にオープンな姿勢で臨むつもりである」ことを強調し、「我々は、ムスタクバル潮流を含む当局者数名から、ヒズブッラーが紛争解決・和解の条件を破っていると非難する意見を聞いているが、我々はこうした(根拠のない)意見には応じない」と述べた。同書記長はまた、「(アラブ連盟の外相会合が開催された)カイロでレバノンがとった立場、そしてこの立場を擁護したジュブラーン・バースィール外相をはじめとするすべての人々」に謝意を示し、「抵抗の民(レバノン国民)に向けて、あなたたちが昨日聞いたことを(改めて)言おう、『(根拠のない非難は)忘れよ、気にするな。歴史的勝利に向かってあなたたちの道を行きなさい』」と述べた。
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( 翻訳者:北本芳明 )
( 記事ID:43796 )