トルコ文学:ヤシャル・ケマルの幻の最新小説『一羽の片翼の鳥』が初舞台化
2019年12月20日付 Hurriyet 紙


不安や、恐れそしてその恐怖の伝染力の威力が物語の中心を占める短編小説の『一羽の片翼の鳥』は、何人もの匠の腕を持つ職人によってラジオ収録スタジオでの編集作業の後、舞台化された。作品は12月22-23日にイシ・サナト文化センターで観客と邂逅する予定だ。

「私はいつも恐れる事を恐れていました。恐怖を恐れていたのです。」とヤシャル・ケマルは『一羽の片翼の鳥』というタイトルの小説についての談話で語っている。「私が小説を執筆していた時、私の中に恐れが存在する事を望んではいませんでした。そのために、この本においても恐怖を物語ったのです。私が兵役をしたカイセリのある町の高台に、巨大な石がありました。さらにその村全体が、この石がその上に落ちてくるのではないかと不安に思っていたのです。石がその上に落ちてきてしまわないようにと、それを鉄の鎖で結わえ付けていました。そうして恐れているのだから、そしたら逃れてどこかへ行ってしまいなさい、と私は言っていたんです。何年も私はこの恐怖について書いてみたいと思っていました。」
そしてヤシャル・ケマルは実際に執筆をしたのだった・・・しかしながらこれは出版されるまでに40年以上の時間を待つ必要があった。一つの長い物語、もしくは小説としてもみなすことが出来る『一羽の片翼の鳥』は、2013年になってようやく出版され日の目をみたのであった。

■村には誰もいない、しかし一体なぜ?

「ボルヘス」風の仕掛けが注意を引くストーリーテリングは、アナトリアにおける苦難に満ちた鉄道の旅から始まる。60年代最後もしくは最も遅くても70年代の初頭が舞台である。ヤシャル・ケマルは、「その時期にアナトリアでは郵便配達人以上に重要な人間は存在しなかった。」と語っている。小説の主役も郵便局長のレムズィ・ベイと彼の妻であるメレキ・ハヌムである。
レムズィ・ベイに辞令が下った。目的地は、ヨクシュル村だ。新しい村、新しい人々、新しい家、新しい仕事、既にその一つ一つが不安要素となってしまっている中で今回は更に悪い条件があった。彼に辞令が下された村は、完全に引き払われた後だったのだ。しかし誰一人としてこの引き払われた理由を知らなかったように、それを知ろうともしないように見受けられた。そこは既に誰一人として近くを通りかかろうとはしない土地だったのであり、しかしながらその理由でさえ知られていない、ミステリアスで闇に覆われた、放置されたままの村なのである。この村への赴任が命じられたにも関わらず向かうことができない郵便局長と、その妻と共に孤独の象徴のようなチャイのエキスパートの一人の駅長、「ドイツへの出稼ぎ労働者」である一人の若い女性、その村の出身で苦しみを抱えていて、いつも村の道を通り過ぎるも、しかしながらその村には決して向かおうとはしないミニバスーバスの運転手たちは小説のその他の登場人物である。そしてまたもう一つ、ありとあらゆる事態を目撃した、クルミの木が存在している・・・
村は、ミステリアスさによる恐怖の生み手である・・・しかしながら暗闇の本当の根源は、村そのもの以上に、恐怖それ自体にもっと存在し、その恐怖の伝染力の威力なのである。恐怖とは、一羽の鳥を片翼にしてしまい、「決して飛ぶな」と言う一つの重圧のようなものである・・・
ヤシャル・ケマルのこの最後の仕事は印象的だ・・・
出版されなかった時期によく「一作の演劇作品なるとよいだろう」という解釈と共に語られた本は、現在ではイシ・サナトにおいて音楽の伴奏と共にかつてのラジオ録音スタジオのアレンジメントで舞台化されている。

■スタジオでの楽しい録音風景を見るかのよう

イシ・サナトにおけるこの物語の公演のただ一つでも、観客が存在したのかどうか、私は知らない。それはまるである時代のラジオ劇場を鑑賞しているようである。私たちの目の前に吹き替えの芸術家たちが存在している。ステージもまた、その語りが上演される環境に相応しいものだ。
この物語も舞台化をしたメフメト・ビルキイェ氏は、以下のようにその環境について語っている。「物語、音楽そしてエフェクトの数々がスタジオで録音されます、あなたもまるでそれを目撃しているかのようなのです・・・あなたは自分自身をイスタンブル・ラジオのCスタジオにいるかのように感じる事でしょう。台本が、名優たちによって朗読されて、ありとあらゆるエフェクトの数々、そして音楽が観客の目の前で展開されます。」
ヤシャル・ケマルの『一羽の片翼の鳥』はティルベ・サラン氏、メティン・ベルギン氏、ビュレント・エミン・ヤラル氏とともにハーカン・ゲルチェキ氏が声を吹き込んでいる。音楽監督とピアノはセルダル・ヤルチュン氏が担当して、サズとトルコ民謡はジェンギズ・オズカン氏が担当した。

この各上映のために文章を選んで、舞台化に相応しい形にアレンジを施したアティッラ・ビルキイェ氏に、なぜ特にヤシャル・ケマルのこの作品を選んだのかということを私は尋ねてみた。ビルキイェ氏は、一つのヤシャル・ケマルの作品を舞台化する事を非常に望んでいたということと、技術面で最も適した作品もこの小説であるということで決定したと話している。「私たちはイシ・サナトで、19年間詩の朗読を行っています。9-10年前から物語の数々の舞台化も始めました。メフメトは、ラジオ劇場のようにパフォーマンスしています。それぞれの舞台は架空の象徴的な場所です・・・これらの上演において間違いなくシアトリカルな状況はありません。物語それ自身、文章と音楽が前面に出ているのです。取り分け、サイト・ファイク、サバハッティン・アリ、ハルドゥン・タネルのような現代文学の代表者たちを、今日まで私たちは選びました。ヤシャル・ケマルの物語の数々は、時間的な制約の意味で一時間、一時間半の上演には技術的な観点であまり適していませんでした。しかし、この作品は非常にうまくいきました。何よりも、非常に力強い文章なのですから。」
文章に関して、メフメト・ビルキイェ氏も、「ヤシャル・ケマルのこの作品にも不可解な要素が存在しています・・・ある人にとってはそれは興奮を呼び起こすものであり、ある人にとってはそれは恐怖を喚起するようそであるその不可解をあなたははっきりと感じ取ることでしょう。」と語っている。

『一羽の片翼の鳥』は、12月22日日曜日の16:00、12月23日の月曜日の20時30分にイシ・サナト劇場で、無料で鑑賞することができる。

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( 翻訳者:堀谷加佳留 )
( 記事ID:48310 )