モロッコ・UAE:西サハラでの領事館開設を経て両国関係はどこへ行き着いたのか
2020年11月16日付 al-Quds al-Arabi 紙
■モロッコ・UAE関係は在西サハラ領事館開設を経てどこへ行き着ついたのか?
【ラバト:ムハンマド・バンダリース、アナトリア通信】
UAEが西サハラ地域の領事館を再開した。また、モロッコ政府が最近行ったゲルゲラット地区での動きを支持し、2年以上も「静かな緊張状態」だった二国間関係に光が当たった。
ある専門家は、(西サハラでの領事館開設という)UAEの新たな一手は、湾岸危機が勃発して以降冷え切っていた両国関係の新たなページが開き始めたことを示唆している、との見方を示した。また他の専門家は、歴史的関係と主権に関する立場の堅持とを区別する、というモロッコのやり方にUAEが理解を示したみており、脅迫とはかけ離れたものだという。
11月4日、西サハラの最大都市ラーユーヌにUAE総領事館が開設された。これにより、UAEは当地に領事館を開いた最初の湾岸の国となり、またアラブ諸国としてはジブチ、コモロ諸島に続き3か国目の国となった。
モロッコのナースィル・ブリタ外相がUAE領事館の開設式典を主催し、駐モロッコUAE大使のアスリー・ザーヒリー氏も臨席した。
モロッコ王宮府の声明によると、先月10月27日、アブダビのムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナフヤーン皇太子は電話でムハンマド6世国王に「ラーユーヌに総領事館を開く」というUAEの決定を伝えたという。
なお、UAE領事館開設により西サハラ地域の領事館の総数は16となった。
西サハラは、スペインによる占領終了後、1975年からモロッコとポリサリオ戦線との間で争いが起きている。
争いは両者の武力衝突へと発展したが、1991年に国連の支援で停戦協定を結び武力衝突は停止した。
モロッコ政府はモロッコの主権下で同地域に広範な自治を与えると提案したが、ポリサリオ戦線は行く末を決める住民投票を行うよう求めた。これは、西サハラからやってきた数万人の難民を受け入れたアルジェリアが支持する提案である。
『我々はゲルレラットにおけるモロッコの動きを支援する』
UAEは金曜日(13日)、ポリサリオ戦線の脅迫行為を止めさせるためモロッコがモーリタニアとの境界にあるゲルゲラット検問所で開始した動きに対して支持を表明した。
UAE外務省は声明の中で「物資と人の本来の流れを保障するため、親愛なるムハンマド6世国王陛下によるゲルゲラットの緩衝地帯における不法侵入に終止符を打つ決定を支援する」と明らかにした。
さらに、UAE政府は「国土と国民の安全を守るため、考えられうるすべての措置に対するモロッコ王国への継続的な」支持を改めて表明した。
先月10月21日以降、ポリサリオ戦線の構成員らがゲルゲラットの検問所を通りモーリタニアへ向かうモロッコのトラックの通行を妨害している。
ゲルゲラットは、モロッコとモーリタニアとの間にある境界線上の検問所であり、モロッコ政府がポリサリオ戦線の構成員らの抵抗を受けながら、その支配権を争っている。
『静かなる危機』
2年以上にわたり、モロッコとUAEは緊張状態にあった。これは、多くの問題で両者の立場が正反対であったためで、その最たる例は、2017年以降継続している湾岸危機においてカタールに課された封鎖に対してモロッコ政府が中立の立場を取ったことだ。
また、イランから支援を受けているフーシ派との戦いにおいて、サウジ政府とUAE政府がイエメン政府派の軍隊を支援しているイエメン戦争からモロッコが撤退したことに加えて、リビア危機に関するUAEの立場もモロッコの立場とは異なるものだった。
さらに、数か月前、モロッコ政府が駐UAEモロッコ大使および総領事の召還を示唆するモロッコの立場について扱ったニュースが取り沙汰された。これは1年以上経っても空席となっている駐ラバトUAE大使が任命されないことが理由だという。
このような矢継ぎ早に展開する出来事と共に今回の危機の様相が浮かび上がってきた。そして、最近ではモロッコ政府とサアドゥッディーン・ウスマーニー首相が、UAEの手先の「電子バエ(注:SNS上で活動している、政治的目的で世論を扇動するために活動している組織やその構成員のこと)」によって、コロナウイルスへの対応の失敗および国民のニーズに応えられていないことへの非難にさらされていた。
『モロッコのやり方に理解を示す』
フェズにあるシディ・ムハンマド・ビン・アブドゥッラー大学の政治学教授スライマーン・ブーンナウマーン氏は「在ラーユーヌUAE領事館の開設は、歴史的、同胞的、経済的関係と、モロッコが貫く主権に関する立場とを区別するという、モロッコのやり方にUAEが理解を示したことの表れであり、脅迫ではなくむしろ協力やパートナーシップに近い」との見方を示した。
さらに同氏は「モロッコは、多くの当事者が対立するかもしれない地域紛争における立場とモロッコの友好国との同胞関係の継続とを区別している」と続けた。
一方で「しかしながら、領事館が開設されたからと言って、あらゆる地域問題においてモロッコの立場の独立性が損なわれることはなく、またアラブ諸国同士あるいは湾岸諸国、北アフリカ諸国同士の仲たがいや紛争において、モロッコの見方を撤回したりやり方を変えたりすることを意味するものでもない」と語った。
さらに「モロッコ政府は紛争に関して独自の考え方を持っており、安定と積極的で公正な中庸を支持する、バランスの取れた中立的な外交政策を実施している」と指摘した。
そして「それと同時に、モロッコは現在の関係深化に応えるUAEの立場に対する必要な評価を行っている。というのも、モロッコはUAEに対してwin-winの関係構築とモロッコの独自の立場の維持を望んでいるのだ」と語った。
最後に「モロッコは、領土の一体性の問題を支援するあらゆる国と関わることができる。しかし、支援という口実の下、いかなる種類の忠告や脅迫や支配の試みがなされることも許さない。これはモロッコが文明的、政治的、文化的に優れていることの表れだ」と締めくくった。
『単なる友好的イニシアティブ以上のもの』
他方、同大学の国際関係学教授ナビール・ザカーウィー氏は「UAEによるラーユーヌでの領事館開設は象徴的な出来事であるが、新たな国際的なパラメーターが揺れ動く中での領事館開設というのは、湾岸危機以降冷え切っていた二国間関係の新たなページが開き始めていることを示唆している」と語った。
また、同氏は「特に、領事館開設はモロッコの外交政策の最重要案件である西サハラ問題に関わってくる」と続けた。
さらに「今回の領事館開設は、UAE側からの単なる友好的なイニシアティブとしてとらえられるだけでなく、領事館開設はアラブ国家側から西サハラ問題に対する現行の政策を強化するものだ。ところで、アラブ国家というのは地域的な影響力があり、他のアラブの国、特にその国の影響下にある国々を同じ方向に向かせるよう仕向けることができるのだ」と続けた。
そして、「今回の変化によって二国間の戦略的同盟関係は永続的なものとなり、二国間の他の問題における意見の相違は状況に応じた対応がとられるだろう」と強調した。
両国の大使を召還するレベルにまで達した2年間の緊張関係を経て、モロッコは今年7月ムハンマド・ハムザーウィーを駐アブダビの大使として任命した。これに応じる形でUAEは今年8月アスリー・ザーヒリーを駐ラバトUAE大使に任命した。
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( 翻訳者:KT )
( 記事ID:50177 )