イスタンブル工科大学チーム「倒壊原因に関する緊急レポート」
2023年02月18日付 Cumhuriyet 紙


トルコの10県に甚大な被害をもたらし、3万9000人以上の命を奪ったカフラマンマラシュを震源とする地震に関する予備調査報告書を、イスタンブル工科大学(ITU)が作成した。報告書では、建造物が倒壊し瓦礫と化した事象には複数のパラメータが影響していると述べられ、倒壊の原因として確度の高いものがリストアップされている。

2月6日にカフラマンマラシュを震源に発生した二度の地震(それぞれマグニチュード7.7、マグニチュード7.6)は、カフラマンマラシュ、ガズィアンテプ、シャンルウルファ、ディヤルバクル、アダナ、アドゥヤマン、オスマニエ、ハタイ、キリス、マラティヤの各県に甚大な被害をもたらした。エラズーでは多数の建物が倒壊した。この地震で3万9000人以上が命を失った。

11県で建物倒壊の原因となった今回の地震について、イスタンブル工科大学(ITU)の専門家チームが予備調査報告書を作成した。

同大学のイスマイル・コユンジュ学長はこのITU報告書の序文で、地震発生後間もなく、土木工学、地質工学、地球物理工学、建築学等各分野の専門家からなるITUチームが被災した各県で調査・観測を実施したと述べている。

コユンジュ学長は、「現地で地震を分析し断層活動を調査した我々の報告書は、(あくまで)『予備調査報告書』という性格を有する。震災の結果を包括的に扱う、より詳細な報告書は近日中に公開されることになっている」と述べた。

■5章からなる報告書

報告書は、「地震の地質学的、地球物理学的、測地学的および地形学的な予備評価」、「強い震動に関する評価」、「構造的な損傷に関する評価」、「将来的な影響を考慮した都市計画と緊急的な住宅需要に対して利用可能な建設技術の評価」、「環境インフラと震災廃棄物の管理の観点での評価」の5章からなる。

■同時多発的な断層すべり

報告書では、トルコ時間4時17分および同13時24分に、パザルジュクとエルビスタンを震源として二度の地震(それぞれマグニチュード7.7、マグニチュード7.6)が発生したとし、「二度の地震により発生した非常に広範囲にわたる地割れが衛星画像上にマッピングされている。地表では断層の一部に裂け目が見られる。断層面と地表トレースは、現地で明らかになっていた断層線に近く、形態学的にはチャルダック断層で尾根と斜面から延びていることが観測される。今回の地震の地表トレースと地表の断裂図はまったく新しい情報も含んでいる。互いに相関するセグメントのすべり分布を見ると、現地ではアマノス・セグメントで2つ、チャルダック断層で2つ、パザルジュク・セグメントで1つ、ギョルバシュ・セグメントで1つと、複数の独立した地震によって同時に断裂が起きたことが示唆される。もうひとつの顕著な要素として、トルコの活断層マップと地表で見られる断裂は重なっておらず、異なる地域を通っている」ことが挙げられる。

■断裂発生までの時間は100秒と60秒

報告書では、遠距離および近距離での広帯域、強震動、GPSといったデータと観測値を検証した結果、2月6日のヌルダウ・パザルジュク地震とエキンオズ地震の計測器によるモーメント・マグニチュードはそれぞれM7.8、M7.7と計算されている。

複数のデータセットに基づく断裂スリップモデルでは、発生した二つの地震によって、ひとつ以上の断層セグメント上に約8~10メートル規模の変位値が記録された。この値は現地観測の結果とも互換性がある。このことを明らかにした報告書では、モデリングの結果、ヌルダウ-パザルジュク地震とエキンオズ地震が起きてから断裂が発生するまでの時間はそれぞれ100秒と60秒だったと明らかにされた。

■地割れによる最大ズレ幅は4.7メートル

静的テストによれば、二つの地震後の最大水平変位は4.7メートルで、この値はエキンオズ観測所で観測された。またマラティヤ、ガズィアンテプ、オスマニエの各観測所では、それぞれ69.9センチメートル、39.6センチメートル、29.2センチメートルの水平変位が観測されたと報告書は述べている。動的テストで得られた結果も、静的テストの結果をおおむね支持するものであったと強調されている。

報告書では、加速度計や計器を設置していた建物が地震で損傷したため、一部の観測所からは信頼しうるデータが取得できなかったと指摘されている。また、2月9日付で災害緊急事態対策庁(AFAD)のトルコ加速度データベース・解析システムのウェブサイトからダウンロードされた、加速度記録から算出されたスペクトル加速度、速度および地動の規模も報告書に収められている。

■倒壊原因として明らかなもの

カラマンマラシュ県パザルチュク郡とエルビスタン郡でそれぞれマグニチュード7.8と7.7の規模で発生した大地震で、東アナトリア断層線上にある10県では鉄筋コンクリート造の建造物が大量に倒壊し瓦礫と化した。この件について報告書は次のように評価している。

「建物が倒壊し瓦礫と化した件には様々なパラメータが関与している。たとえば築年数、地盤強度の弱さ、建材の質、柱や梁の断面寸法や補強材の不足、耐荷重システムの各要素が建設当時の基準に準じていないこと、その他の建設上の欠陥、隣接する建造物の階数の差異等は明らかな倒壊要因だと見なされている。

■土壌液化現象

カフラマンマラシュとアドゥヤマンでは、瓦礫と化した建物のほとんどは1階部分の一部または全部が柔らかい床(横方向の剛性に欠ける状態)となり、すべての階が次々と重なり合うサンドイッチ状もしくは横向きに全体・もしくは一部が崩壊する座屈破壊状態となったとみられている。ハタイ・アンタキヤ、アドゥヤマン・ギョルバシュ等の地域では地盤液状化が発生し、これにより建物の基礎システムによっては建物全体が傾いたり、一部が液状化した地面に沈み込んで傾く様子が観察された。

また、一連の地震の結果、鉄筋コンクリート造のように構造の全部が規制に適合し、なおかつ地盤強度の高い土地に建設され、建設プロジェクトにも最大限適合する形で工事が行なわれた病院や一部の公共建築物では、深刻な地震を受けても建造物に発生する構造的な損傷は非常に限定的な規模であることが今回も示された。

■「建設特赦は撤廃すべき」

報告書は、1350万人が暮らしていた被災地の地震前後の状況も評価している。そのなかで、「科学的根拠に基づかない建設特赦のような、(正しい)建築工事を経ず、不健全で危険な建築物を合法化する規制を撤廃する必要がある。また再建プロセスでは自然な閾値が導入されるべきであり、文化財を除いて、(適切でない)土地での建設は許可されるべきではない」という提案がなされた。

被災地復興プロセスについては、今後の住宅建設では、地盤状況等様々な条件を考慮した上でトンネル型枠工法による耐荷重構造、鉄筋コンクリート造のプレハブ住宅、モジュラー鋼構造建築の有用性が提示されるとともに、それらの評価も必要とされた。

■インフラと震災廃棄物の管理

報告書は、地震によってインフラ設備も建造物と同等の損傷を受けたとし、特に水道管の損傷は水供給と下水処理に深刻な問題を引き起こす可能性があると指摘している。報告書では、地震後、水を媒介して感染しやすい感染症のリスクが高まっていると警告されており、こうした水に起因する感染症の流行を防ぐには、安全な水供給のための技術的対策を迅速に講じることが重要だと述べられている。

■重大損傷および倒壊した建物数

環境・都市化・気候変動省は、地震後、13県で被害検証を実施している。2月16日時点で、建物6万1722棟、26万3800軒の家屋は早急な取り壊しが必要で、損傷・損壊状態は深刻だと報告書は述べている。

■震災廃棄物は5000万~1億1000万トン

上記をもとに、どれだけの震災廃棄物が発生するかという予備計算が行われた。報告書では各県ごとの推定廃棄物量に関して次のようにまとめた。

「震災廃棄物の総量は5000万~1億1000万トンになると推定されている。震災廃棄物の大量発生が予測される県は、地震の影響が大きかったハタイ、カフラマンマラシュ、マラティヤ、ガズィアンテプ、アドゥヤマンである。つまり震災廃棄物の一時保管場所や最終保管場所もこれらの県で必要度が最も高い。そのため、まずは既存施設にどれだけのキャパシティが残っているかを明らかにし、必要に応じて、一時的保管所や最終保管所の新設を検討しなければならない。上記5県に続き、オスマニエ、ディヤルバクル、エラズーで廃棄物量の多いと予測される。アダナ、カイセリ、キリス、ニーデ、シャンルウルファは震災廃棄物の量が比較的少なく、既存施設で十分と考えられる。とはいえ、依然として既存施設のキャパシティを確認する必要がある。」

■廃棄物と瓦礫の運搬

報告書では、倒壊した建物の残骸や廃棄物の運搬・管理プロセスで、必要な労働衛生・安全対策が講じられるべきだと強調され、特に次の点が指摘された。

「震災廃棄物は一時保管場所に運ばれ、そこで材料ごとに分別され、多くは再利用されたり、リサイクルや回収される。残りは危険度レベルに応じて、関連規制に則った方法で処分されるべきである。一時保管場所と最終保管場所は、廃棄物の想定量に見合った規模を備え、なおかつ関係者以外の立ち入りは制限される必要がある。火災リスクを考慮すると、特に一時保管場所では廃棄物を一定の高さ以上に積み上げてはならない。火災リスク等の状況に応じた必要な安全対策が講じられるべきである。」

報告書は、地震の社会的影響を注視し、復興に向け、短期、中期、長期の取組がなされるべきだと指摘した。

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( 翻訳者:原田星来 )
( 記事ID:55069 )