4万5000人以上が命を落としたカフラマンマラシュでの地震後、ハイリスクとされる地域から移住しようという動きが起き始めた。移住先として需要が最も大きいのはトルコ住宅公社(TOKİ)の住宅だ。
カラマンマラシュを震央とする地震と甚大な被害は、イスタンブルの人々にあらためて1999年地震を思い出させた。イスタンブル市民は都市を離れ、より地盤の強い場所へ移住しようとしている。
古い建造物が集中するカドゥキョイ地区をはじめ、アヴジュラル地区、ベイリクドゥズ地区、バージュラル地区、セファキョイ地区等多数の地区で地震関連移住者が出始めていることが明らかになっている。
■「海岸地域から北上する傾向」
この問題について不動産専門家のムスタファ・ハカン・オゼルマジュクル氏は次のように説明する。「とりわけ地震後は、被災者はもちろん、被災していない人々もイスタンブル市内で引っ越しを検討する傾向がここ数週間で激化していると言える。特に沿岸部、つまりマルマラ海に近い地域で。ゼイティンブルヌ、バージュラル、アヴジュラル等の地区や、アナトリア側のカルタル、ペンディク等の地区に住む人々が、市北部に引っ越そうとする傾向がみられる。こうした引越し先探しの動向は当然顧客の予算によってまちまちだが、あえて言うなら高層から低層ビルに、そしてより地盤構造が強固な場所に、という傾向があり、引越しの動きはイスタンブル北部に向かって集中している。
■「TOKİ住宅に殺到」
TOKİ住宅への需要はこれまで以上に高まっている。かつては「TOKİ住宅に住んでいる」と言えば、聞いた人は建物の耐久性よりもむしろ環境や住民層を思い浮かべたものだが、(今は)TOKİといえば耐久性を思い浮かべる。建物構造そのものが有する強度もそうだが、むしろ地盤の強度がまっさきに出てくる。
つまり今回の地震は、構造自体の頑丈さが強みとなるだけではなく、それと同時に地盤構造も頑丈であることが大事なのだと我々に意識させた。
■「誰もが頑丈な土地を探している」
1999年のイスタンブル地震以降、地震リスク評価項目に地質調査が加わったと言える。イスタンブルの世帯数の45%は2001年以降に建てられた住宅に住んでいる。つまり賃貸住宅に空室は出ることはなく、出たとしても次の住人によって埋まることになるだろうが、それでも、今の家より少しでも地震に強い場所はどこなのかを誰もが調べている。
■イスタンブルで選ばれているのはこの地域
それほど遠くない場所でもっと新しい建物、あるいは近くになければ北部にほかの建物がないかという要望があり、こうした需要の動向にけん引されて賃料の上昇がみられる。アナトリア側ではチェクメキョイを筆頭に、シレやアーヴァといった地区も候補に挙がる。ヨーロッパ側ではバシャクシェヒルやアルナヴトキョイ等の地区が筆頭に上がっている。
■「定年退職法改正で移住増加の可能性」
定年退職(EYT)法の改正を受け、イスタンブルから他県への人口流出の可能性を見込んでいる。この点では、テキルダーやトラキヤ地方、特にテキルダー県北部やクルクラーレリ等の地区が筆頭に挙げられるだろう。
このライン上でもう少し内陸寄りのバルクエスィル等の地域にも集中する可能性がある。エーゲ海沿岸部の低階層の建物に(移住が)集中することもあるだろう。
■「物価は15日間で20%上昇」
物価はこの15日間で20%上昇したと言える。震災後、家賃は15~20%上昇した。この時点で賃貸アパートの空室はほぼなく、被災者の流入とともに限られた空室も埋まった。そしてどこであろうと賃貸住宅は見つからなくなった。見つかったとしても、市場では、やりたい放題の価格で賃貸契約ができる。我々もある程度は抵抗して法外な値上げを防ごうとしているが、家主は規定に従わずに賃貸広告を出してしまう。
店子による又貸しの事例もある。大家による管理システムがないため、安く借りた一軒家を第三者に貸したり、一つのフラットに複数の部屋を借りているだけなのに複数のフラットに見せかけたりと、さまざまな事例に遭遇する。
■古い建物の価格は下がるか?
賃貸部門では賃料はすぐには下がらず、ストップ高状態になる可能性がある。とはいえ空室はないとなると、特に2001年以降に建てられた比較的新しい低層の物件はほかよりもはるかに高額になるはずである。一方、ファーティフ、バージュラル、ゼイティンブルヌといった地区の、高層で築年数の古い建築物では価格が下がるとみている。
その理由として、人々が家を買いたがらないだろうということが挙げられる。都市再開発のタイミングで解体すれば価値が倍になるような場所ならともかく、そうでない古い住宅の価格は上がらないだろうと言える。」
ここで、全国不動産起業家協会(TÜGEM) のハーカン・アクドアン会長は次のように解説した。
「要約すると、高危険度地域、つまりトゥズラから海岸線に沿ってペンディク、カルタル、カドゥキョイ、ヨーロッパ側のゼイティンブルヌ、バクルキョイ、フロリヤといった地域に住む人々が、その場所から離れたがっている。
■「人々は中危険度地域へ」
移住しようとする傾向は、1999年イスタンブル地震以前に建てられた住宅に住んでいる人々においてより強く、多くは中危険度地域に向かっている。イスタンブル中心部に近い場所、つまりベイコズ後背地であれ、アルナヴトキョイであれチェクメキョイであれ、地域としてはそのあたり一帯が中危険度地域とされている。
それよりさらに地震リスクが低い地域を、という人々はまっすぐ北上して、そのあたりで物件探しとなる。もちろんイスタンブルから離れたいという人がコンヤやアンカラ出身であることもある、黒海地方にはより地震リスクが低い場所もある。もともとの故郷がある人はそれぞれの地元に向かっている。
上昇する家賃と地震のリスクが、人々にこうした志向を抱かせている。
■引越しではいかなる基準が重視されている?
地震や家賃、生活費高騰が重く感じられる都市生活、そして、地震を考えると生命の安全は保障されないという考え方が、人々を引越しに向かわせる。イスタンブルの建築ストック(建造物)の60%が1999年地震以前に建設されたと仮定すると、それは今後起こりるかもしれない地震のリスクとなる。
イスタンブルからの脱出者は、この10日間で過去20年間におけるピークに達したと言われている。このことがイスタンブルの人口構造にどのように影響するのだろうか?今後も移住は続くのだろうか?
■「高危険度地域では価格低下の可能性」
私見では、特に高危険度地域の不動産価格には安定したパターンがあり、価格は下がる可能性がある。人々はその地域から離れたがるため需要がない。中危険度地域、低危険度地域では、地盤の頑丈な土地への需要が高い。さらに一戸建への需要は非常に高い。この要望を満たした場所の価格はもっと上がると考えている。
このことに伴う変化もあるだろうが、あいにくその変化の程度を見積もることは困難だ。生活志向の変化はもとめる不動産の傾向をも変化させた。 人口構造にも変化があるだろうが、今その規模を予測することは難しい。
■市民への重要アドバイス
ここで人々は冷静になる必要がある。地震が誰にも予測できない以上、早急に建物を調査する必要がある。1999年地震より前に建てられたからといって必ず倒壊するとも言えないため、構造上の危険性を見極める必要がある。このことは地震以降の構造物にも当てはまるし、そうした構造物の調査も必要となる。
複数の懸念材料がある場合は、それについても構造調査が必須である。そのうえで強靭化や都市再開発をおこなえるのであり、パニック状態のなか、今日明日で解決できるような状況ではない。
少なくとも、人はなにかの予防策を講じようとするとき、それがなんのためなのかは知っている。たとえば、自分が住んでいる建物が頑丈かどうかわからないが、とにかく別の場所を探そうという考え方は健全ではない。まずは建物のリスクを評価し、その上で一歩ずつ必要なステップを踏んでいくのがよい。
■「パニック状態での判断はよくない」
もし引越しの必要がある場合は、その時は引っ越しをしなさい。不確定要素だらけなのにパニックの勢いだけで判断するのは誤りだ。そのせいで住宅価格が必要以上に上昇したり、人々の暮らしのあらゆる場面に悪影響が及んだりする可能性がある。落ち着いて、建物のリスクを判断し、それに基づいた行動をとるほうがはるかに正しいと考えられる。」
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( 翻訳者:原田星来 )
( 記事ID:55161 )