トルコ文学と出版界の巨匠エルダル・オズが1981年に創設したジャン出版は今年30周年を祝う。30年間に482人の外国作家、230人のトルコ作家の本を紹介してきたジャン出版の出版編集担当のゼイネップ・チャールヨルは、次のように語った。
■ジャン出版を立ち上げるとき、エルダル・オズはどんな思いで出発したと思いますか?
ジャン出版は、結果としてエルダル・オズの作品です。本当に1人の人の知性の、1人の人の心の作品なのです。もちろん、エルダル・オズの出版業界における友人たちもジャン出版の創設に手を貸したことでしょう。しかし、エルダル・オズこそが、世界の文学を短期間でトルコ語で読めるようにしたといっても嘘にはなりません。長い文学作品のリストができました。エルダル・オズは作家であり、本屋の店主であり、そしていくつかの出版社に勤め出版業界に入った人間です。本当に文学に魂を捧げた人でしたから、文学に貢献したい、そしてそれを共有したいと思っていました。出版することとは、何よりもまず、とても気に入ったもの、価値を認めたものを他の読者と共有することなのです。これを出発点として始まったエルダル・オズの目標は、文学作品を出版する一人の出版者になることでした。ジャン出版社の真の定義は、「文学出版者」です。
■「文学出版者」とは、どういう意味ですか?
すばらしい文学作品、という意味です。この用語をフィクションの出版社という意味で使っているわけではありません。質のいい文学に貢献するものに私たちが与えた名前です。エルダル・オズの選択は、最も売れそうなものではなく、最も価値があると考えたものに向けられていました。私は個人的に、息の長い出版社になることができるには、必ず「文学出版者」という経験を踏んでおく必要があると考えています。なぜなら、長く残るのは文学であるからです。
■エルダル・オズは5年前に亡くなってしまいました。彼の後にジャン出版社はどのように続いていますか?
第一の原則は、文学出版を続けていくことです。質のいい文学作品を、私たちの力で可能なかぎり最もよい翻訳でトルコ語への移すということを真摯につづけています。もちろん、白表紙シリーズも続けて行きたいと思っています。もはや白い表紙はジャン出版社のトレードマークとなりました。トルコ人読者の目には、白い表紙、赤いハートは文学を意味しています。これを今後も続けていくつもりです。ジャン出版社がかつて出版し、時間とともに消えてしまった、あるいはあまり注目されなかった何人かの昔の作家たちをもう一度すべてそろえて、復刊します。もちろん、世界の文学からも新しい作家を加えます。もちろん、各出版社にとってもっともすばらしい仕事は自分たちの言語の作品を出版することです。その方向でも、努力しています。新しい作家、新作、新しく文学界に参加したものもフォローしますし、すでに名の知れた作家や作品も私たちの出版リストに加えたいと思っています。新しいいくつかのシリーズを始めました。
■新しいシリーズを始めた理由は?
ジャン出版が、さらに広い読者層に向けて、出版に彩り加える新シリーズをだしても、白表紙シリーズ、すなわち文学に与えた優先事項は減るどころか増えています。いくつかのシリーズを始め、大きなサイズで色刷りの表紙の、多く売れるといわれる版形での出版を始める目的は、さらに多くの読者に発信したいからです。
なぜなら、私たちには、本当に私たちのことを見てくれている、見つめてくれている読者さんたち、私たちが出版したものを好んでついてきてくれる読者がいます。私たちは、彼らと会話しています。私たちは、可能な限り彼らに違った選択肢をもつ本を提供していきたいと考えています。エルダル・オズが出版社を設立した時とは時代が変わりました。30年経過してからは、出版はひとつの業種となりました。その業界に不可欠なこととして、動き続けなくてはならないと感じています。そのため、出版の種類を広げることが必要だと思っています。これは、実際にエルダル・オズがしばしば試していた道でした。
■シリーズをどのようにして作ったのですか?
編集委員会として何ヶ月も試行錯誤して、何度も話し合っています。このシリーズがどのような読者に向けられ、どのような需要にこたえられるかというアウトラインをつくろうとしています。実際、このシリーズは様々な探求の結果なのです。例えば、「40の発見」のシリーズは、今の文学作品の読者にこれまでと異なった風味のものを提供したいという探求から出来たものです。「40の発見」シリーズはテーマにそったシリーズです。完全に私たちが一つずつ本の中身を見ながら選んで、作り上げたシリーズ作品なのです。つまり、どこかに準備されていたような代物ではないのです。
若い読者に向けて、幻想的でロマンチックなシリーズを始めました。このシリーズを始めるときにも、私たちに何が適切かというのを考えました。その答えが、この分野の最初の作品、つまり基礎を成す本、古典を出版することでした。すべての読者に、特に、なにより若い人たちにこの手の古典文学を提供したいと思いました。これらはすべて、文学の読者にむけて、白表紙シリーズを補完する作品群です。白い色に目が行くと言うのも少なからず私たちのもくろみです。幻想的でロマンチックなものから入った若者読者たちが、白い本も続けて読んでくれると思っています。
一方で、「時間が無い、簡単に読める本がほしい」という読者のために、スリラー、恋愛、歴史小説も始めました。これらは大判で出版した本です。そして、既刊のパウロ・コエーリョ、スザンナ・タマーロ、マルク・レヴィのような、このシリーズにより適格と思われる作家の作品の版形を変えました。つまり、本を大きくし、色刷りの表紙にしました。例えば、6月にはじめて歴史小説を扱います。歴史小説には一定のファンがいます。さらに男性にも女性にも様々な年齢層の人たちにもお勧めしています。
■ジャン出版は若い作家の処女作を出版する出版社としても重要なところですが、あなたたちのところに来る原稿をどのように評価しているのですか?
私たちは全原稿を読んでいると、はっきりと言うことが出来ます。言うべきことを持った人がそれを言うために書いた本であるかどうか、文学の価値を持っているかどうか、私たちの考える文学の枠組みにあっているかどうかを見ています。
■1年にどのくらいの原稿を見ているのですか?
1000は軽く超えていると思います。1月に平均8冊の本を出版しています。私たちのリストに名を連ねる力があると確信でき、その作家も書くのを続けて行けると私たちが見極めたものに、実現の場を提供していきたいと思っています。文学であるかどうかを見ています。販売やテーマが魅力的かどうか、その人が誰であるかといった基準は白表紙シリーズの本を選ぶにあたって全く関与しません。そこではただ文学であることが重要なのです。私たちが出版するに必要があると思えば、販売時期は適切か、流行に合っているかは、議論しないのです。
私たちは物語に力を注いでいる出版者なのです
■30周年記念の行事は、どのようなものですか?
30周年を、文学関連の行事で、文学に貢献しつつ祝いたいと思います。ビルギ大学とともに行ったラテンアメリカ文学コースを30周年の一部として実現することが出来ました。秋にもこのような活動を考えております。「短編小説祭」も30年目の中で自信を持ってお送りしようと考えている一つのシリーズです。30周年を祝うために、偉大な世界の作家たちからも毎月1冊ずつ短編集を出版しています。多くの出版社は短編から逃げたがる傾向にありますが、私たちは短編の出版に力を注いでいる出版社なのです。
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翻訳者:奥 真裕
記事ID:22686