コンビニ人間:適応かさもなくば反抗せよ!村田沙耶香『コンビニ人間』トルコ語訳が出版に
2019年11月05日付 Hurriyet 紙
パートタイムのレジ打ちの仕事もしていた日本人作家村田沙耶香氏のトルコ語へ翻訳された最初の本である『レジ打ち係』(原題は『コンビニ人間』。以下も原題を使用)は、社会への適応において様々な問題を抱えている、あるコンビニのレジ打ち係の生活に焦点を当てており、怪しくて当惑させる奇妙な小説だ。
村田沙耶香氏の『コンビニ人間』は、2018年にイギリスでガランタ・ブックスから出版された。出版された年に数多くの称賛を受けてニューヨーカー、バズフィード、ボストン・グローブといった媒体によって、その年を代表する本の一冊として選出された『コンビニ人間』は、同時にロサンゼルス・タイムズのベストセラー・リストにも入り、ビリーバー・ブック賞のロングリスト入りも果たした。さて、『コンビニ人間』はいったい何を物語っているのだろうか、これほどの関心を呼んでいる背後にある理由とは、どのようなものだろうか?
『コンビニ人間』、は10作品以上の小説を執筆した村田氏の、英語にもトルコ語にも翻訳された最初の書籍である。そのタイトルからもわかるように、あるレジ打ち係の人生にスポットが当てられている。古倉恵子のである。恵子は若い時期にレジ打ち係の仕事を始めた。そして世間では一時的なものだとみなされているこの職業を何年も続けているのだ。幼少期の頃から今日まで、さまざまな情緒や社交上の問題を抱えてきた恵子は、社会に適応することができないキャラクターである。ありとあらゆることが規則通りであり、店に届く牛乳やミネラルウォーターが陳列される棚が決まっていて、全ての商品の金額がその上に書かれているコンビニで仕事をすることは彼女にとって居心地がよいものだ。自分のエチケットが十分ではなかった状況ではウディ・アレンの忘れられないキャラクター、「ゼリグ」(映画『カメレオンマン』に登場する、周囲の環境に合わせて様々にキャラクターを作り替える人物)のように同僚の真似をし始めるのだ。店長のように感謝を伝え、同僚のように客たちに関心を持つ。そのようにして社会の様々なコードからは自由で、ただただコンビニの中で自分にとって必要なことだけを学んでいる。そうして社会の様々な問題からは除外されたキャラクターへと変わる。これらの理由で、同じ場所で何年も仕事をすること、社会と面倒を起こさないことは彼女にとっての理想なのだ。彼女はもはや自分を仕事場の一部分だとみなしている。自分の体もこのコンビニから吸収したものによって構築されていると考えている。
しかしながら、コンビニで仕事をすることは社会によって認められるためには十分ではない。社会は次第に恵子に結婚することを、家族をつくって子供を作ることを、彼女にとってよりよい仕事を見つけることを望むようになる。コンビニにおける能力はもはや限界に達していた。
まさに一人の「不適合者」としてレッテルを貼られそうになり、それまでの調和が丁度崩れそうになった恵子に手を差し伸べるようにコンビニに、仕事を始めたばかりの一人のキャラクターが登場する。白羽である。
白羽と恵子は、社会によって疎外されてコンビニへと逃れた二人である・・・どれほどそれぞれに似ていなかったとしても異なる種類の、異なる形で批判をされる二人のキャラクターだ・・・
白羽は働くことが好きではなく、常に自分をよりよいポジションにあってほしいと願っている。そのため家族が自分を放っておいてくれるように、と結婚することを望んでいる。恵子はというと彼女に向けられる圧力にうんざりしてしまっている。結婚することも彼女にとっては役に立つ何かなのである。二人はある合意を交わして圧力をかけてくる諸組織に対して、いわば共に戦いを挑むことを決心する。
『コンビニ人間』は、ここで奇妙な状況に到達する。コンビニから離れた恵子は、次第にコンビニの「声」を耳にするようになる。自分自身をコンビニの一部であると感じるようになり、そうして居心地がよく、そのルールに慣れ親しんだ場所へと戻ることを望む。一方では自分に呼び掛けをしてくるコンビニ、もう一方では社会に適応しなければならない義務・・・
恵子の選択は未来に影響をもたらすだろう。
『コンビニ人間』で物語られること、言及される社会というのは、トルコの社会も無縁なことではない。私たちが本で目の当たりにする結婚することへの圧力、良い仕事を見つけること、「よりよいもの」を求めていくこと、子供を作ることなどの強要は、トルコの社会においてもありふれている主張である。恵子の中にある適応することと反抗することのジレンマは、日々の生活において私たちの目の間に立ち現れる様々なジレンマの一つである。
社会が移り変わり続け、均等化へと動き続けてしまうと、恵子のようなキャラクターはコンビニへと逃れるか、もしくは抵抗をすることになるのだろう。
『コンビニ人間』は、家族、仕事場、結婚といった諸問題を俎上に載せ、それについて考えられることが必要であり、書かれる必要がある、怪しく当惑させる、奇妙な小説なのである。
『レジ打ち係』
筆者:村田紗耶香
翻訳:H. ジャン・エルキン
出版:トゥルクアズ書店, 2019
126ページ、18リラ
この記事の原文はこちら
原文をPDFファイルで見る
翻訳者:堀谷加佳留
記事ID:47992