■翻訳家契約のカウントダウン
【スカイニュース・アラビーヤ:イブラーヒーム・クー二ー】
ある賢人に対し、彼の人生のなかで阿片と化した考えを、まるで自殺かのように放棄するよう説得する手段はどのようなものだろうか。
アラビア語翻訳の業績に対し賞を授与するための会議がカタールで開催された際、私は旧友であり、学術者であり、アラビストであり、翻訳家である奴田原睦明氏と同席し、以上の問いを自問することになった。この際授与の対象となったのは、私の作品群を世界各国へと知らしめた、私の古い友人たちで構成された偉大なグループであった。
彼らはドイツ・スイスのハルトムット・フェンドリッヒ、イタリアのイザベラ・カミラ・ディ・アフリットー、アメリカのナンシー・ロバーツ、ドイツのシュテファン・ファイドナー、そして四半世紀にわたる遠別ののちに姿を現したことで私を驚かせた、日本の奴田原その人であった。
彼は、この世界の数多くの首都のはざまで行方不明となった私という人物を長きにわたって探した後、前世紀である90年代の半ばにスイス・アルプスの私の邸宅を訪れた。彼が文学作品を通して知ることとなった人物に面会してみたいという、彼自身の好奇心の渇きを癒すためであった。とりわけ、彼が日本語訳を行い、その出版にあたって契約書へのサインを私から引き出し、その後この業績によって日本翻訳委員会から賞を得ることとなった「ティブル」である。
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