エルドアン・シュルツ会談で話されたことは?
2023年11月18日付 Cumhuriyet 紙
独オラフ・ショルツ首相とレジェプ・タイイプ・エルドアン大統領が共同記者会見をおこなった。この会見でのエルドアン大統領の発言がドイツ国内で幅広い反響を呼んでいる。また、ドイツ政府関係者によれば、両国の首脳会談で5つのトピックに関する共同アプローチならびに目標が決定された。
エルドアン大統領は、約8時間に及ぶベルリン訪問のなかでショルツ首相との共同記者会見を実施した。会見の場でエルドアン大統領は、質問した記者に対して「報道関係者として我々を脅迫しないでもらいたい」と答え、このことが独マスコミの注目を集めている。
また、一部の論評では、エルドアン大統領はイスラエルを厳しく批判したものの、「テロ国家」や「大量虐殺」といった決めつけをしなかった点が注目に値するという意見もみられる。
さらに、ショルツ首相との共同記者会見でエルドアン大統領が、ハマスを「解放組織」と表現することを避けた点も指摘されている。
■ショルツ首相へ激しい批判
エルドアン大統領の訪独後にドイツメディアに掲載された論評は、ショルツ首相に対しても厳しい批判を向けた。
『Die Zeit』紙の論評は、エルドアン大統領に反イスラエル論を広める機会を与えたとショルツ首相を非難。
「恥ずべき訪問」と題されたこの論評では、ショルツ首相が側近らの激しい反対をかえりみずエルドアン大統領との共同記者会見を容認したと述べた。
同紙は、(ショルツ首相の容認により)エルドアン大統領はハマスに関する持論を展開する機会を得、さらには質問した記者を「叱責」する機会を得たのだとした。
この論評には、「独裁者と対峙する際は外交的であるべきで、意気地なしであってはならない」との見解も含んでいた。
■「ショルツはアメとムチのゲームをしている」
一方、『Bild』紙の論評は、ショルツ首相はエルドアン大統領を相手にアメとムチのゲームをしていると分析する。
同記事は記者会見でのエルドアン大統領の発言を細かく分析した上で、ベルリンでのトルコ大統領の発言はジグザグだと(首尾一貫していないと)主張している。
そして、今回、エルドアン大統領は自身に向けられた質問を受け流し、イスラエルに向けた「憎悪の非難」を言葉に表すのを避けたとした。
記事は、「エルドアン大統領は自身に注目を集め、欧州、NATO、そして世界で重要な役割を果たすことにも苦戦している」と分析し、次のように指摘した。
「ショルツ首相はアメとムチのゲームをしている。まず第一に、ショルツ首相は、イスラエルがハマスのテロリストによって攻撃されており、したがって「自衛」のためのあらゆる権利があると明確に強調した(略)しかし、その後、ウクライナ穀物協定の仲介についてはエルドアン大統領に謝辞を述べ、(トルコとドイツの)往来を容易にするためのトルコ国籍者ビザ簡略化についてもエルドアン大統領と議論すると述べている。同じことが貿易や経済についてもいえる」
■「エルドアン大統領はリスクを冒せなかった」
『Stern 』紙は、「スキャンダラスな30分:ショルツ首相のパフォーマンスは見事」と題した論評の中で、「トルコ大統領は叱責し挑発したが、首相は平静を保った」と述べた。
この記事は、「レジェップ・タイイプ・エルドアン大統領はありとあらゆる発言に挑発要素を織り交ぜたが、オラフ・ショルツ首相の反応を得るには至らなかった」と評価し、エルドアン大統領は両国関係のさらなる悪化を招くようなリスクを冒せなかったのだと述べた。
論評は、約30分間続いた記者会見はどの瞬間も緊迫していたと指摘し、「この30分間の終わりに、ある質問をきっかけにエルドアン大統領はドイツ人ジャーナリストを侮辱した。これは、エルドアン大統領がショルツ首相以上に神経を尖らせていたことを示している。(一方、ショルツ首相が)表情を変えずに立っていた姿勢は首相の冷静さのあらわれと言える」と論じた。
■「エルドアン大統領がハマスの人質を重要視する可能性」
『Rhein Zeitung』紙の論評は、「厄介な人々との対話も政治の一部」と強調し、トルコとドイツの緊密な経済・人材交流に注目するとともに、ショルツ首相がエルドアン大統領との会談を避けるのは論外だと主張した。
同紙の取材に応じたドイツの外交官らは、「エルドアン大統領の粗暴なふるまいはあったものの、トルコ政府との信頼関係は依然として機能している」と述べたようで、トルコがEUへの接近を望んでいる様子がうかがえる。
さらに、エルドアン大統領がドイツとの経済関係を危険にさらしたくないのだろうと指摘されており、かつ、ドイツ政府としては、ハマスに拘束されている人質救出が依然として最優先課題の一つだと指摘している。
同紙の論評では、「ベルリンの外交官らは、エルドアン大統領が人質救出に力を注ぐことを確信している」という見解も示された。
■両国首脳が合意したテーマは?
レジェップ・タイップ・エルドアン大統領のベルリン訪問は、ガザを巡るトルコとドイツの見解の相違を解決することはできなかった。
それでも、ドイツ当局者らによれば、両者会談で、不法移民対策、エネルギー問題、気候変動への対策といったテーマでの協力の進展が決定された。
ドイツ関係筋は、エルドアン大統領と外交政策問題を直接話し合う機会となった今回の訪問は有益だったと指摘しており、両者会談でトルコとギリシャ間の正常化プロセスやスウェーデンのNATO加盟についても議論がなされたと述べた。
また、政府関係者によれば、エルドアン・ショルツ会談で、二国間関係と外交政策に関する以下の5つのトピックに関する共同アプローチと目標が決定された。
■エネルギー協力
ドイツ当局者らは、トルコは地理的にこの地域の「エネルギーセンター」になりうる可能性があるとしながらも、エネルギー問題に関する両国間の交渉は今後も続くと明らかにした。
会談では、気候目標を達成するための両国間の協力の進展についても議論された。
ドイツは、トルコが再生可能エネルギーと気候変動の目標を達成できるよう、国際気候イニシアチブ基金を利用することに対し支援をおこなうと提案した。
■不法移民対策
(不法移民対策としては)トルコからドイツに渡り亡命申請したものの不受理となった人々を帰国させるための効果的な仕組みをつくることが目標になっている。
この目標に向かい、両国が容認可能な合意を形成するため、両国内務担当局の間で新たな作業部会が設立され、業務を加速させることが決定された。
■地震被災地支援
ドイツ政府は、2月6日にトルコで発生した地震で大規模な被害を被った地域の再建を引き続き支援する。ドイツは特に教育インフラの再建の支援を通じて貢献することになる。
■ドイツ国内でのイマーム教育
ドイツ国内の政治で最も物議を醸している問題の一つである、トルコからドイツへのイマーム派遣停止についてもエルドアン大統領とショルツ大統領の間で共通理解が得られた。
ドイツ国内のトルコ人コミュニティのモスクで働くイマームはドイツ国内で教育を受けた候補者の中から選出すること、ドイツ国内でのイマーム教育を拡大させること、その代わり、トルコからドイツへのイマーム派遣は段階的に停止していくことなどが合意された。
■アルメニア・アゼルバイジャン和平問題
両国首脳は、アルメニア・アゼルバイジャン関係の直近の展開とトルコ・アルメニア国境開放の可能性についても協議し、アルメニアとアゼルバイジャンの年内の和平協定締結に向け努力することで合意した。
■スウェーデンのNATO承認への期待
ドイツ政府筋提供情報によれば、ショルツ首相とエルドアン大統領は、ロシアの対ウクライナ侵攻を早急に終結させるべきだという点で同意している。
会談では、ここ数カ月で加速したトルコとギリシャの協議や関係正常化に向けた取り組みについても議論された。
ショルツ首相は、アンカラ(トルコ)とアテネ(ギリシャ)の間で形成された前向きで新しい勢いを支持すると強調した。
エルドアン・ショルツ会談では、スウェーデンのNATO加盟問題も詳細に議論された。
ショルツ首相は、スウェーデンのNATO加盟は同盟全体にとって有益だと強調し、トルコにおける承認プロセスがすみやかに完了するようにと期待を述べた。
また、ドイツ当局者らは、会談中、ショルツ首相がイスラエルとハマスの衝突に対するドイツの立場を明確に述べたとし、ガザの人道状況や人質解放の取り組みについて話し合われたと明らかにした。
また、衝突がエスカレートし地域紛争に拡大するのを防ぐための対策が議論されたとして、「会談ではガザ地区と中東地域の紛争への今後の展望についても話し合われた」との情報を共有した。
この記事の原文はこちら
原文をPDFファイルで見る
翻訳者:原田星来
記事ID:56748