ピニシ船上の「ジョコウィ」、そしてインドネシア海洋国家政策

2014年07月23日付 Kompas 紙
7月22日、北ジャカルタのスンダ・クラパ港のピニシ船上で大統領選の勝利宣言を行うジョコ・ウィドド氏とユスフ・カラ氏
7月22日、北ジャカルタのスンダ・クラパ港のピニシ船上で大統領選の勝利宣言を行うジョコ・ウィドド氏とユスフ・カラ氏
ジャカルタ、 Kompas.com配信
7月22日の夜、大統領と副大統領に選出されたジョコ・ウィドド氏とユスフ・カラ氏は、スンダ・クラパ港の第4埠頭に接岸している機帆船ハティ・ブアナ・セティア号のデッキを勝利演説の場として選択した。ジョコ氏とカラ氏のペアは何故そのような船を選択したのだろうか。
ジョコ氏―カラ氏の勝利演説の調整役であったジャイ・ウィジャヤント氏、もしくは通称「ザイトゥン兄さん」は、埠頭に止まった船の上での勝利演説は両氏がインドネシア海洋国家政策推進派であることの象徴だという。

22日夜、「海洋政策はこれまで政府によって置き去りにされてきたように見える。ジョコ氏とユスフ・カラ氏はそのことを言明したいのだ」と同氏は述べた。
その考えを起点として、3日前の7月19日から選挙ボランティアたちは演説に相応しい場所を探していた。そしてついには、北ジャカルタ区のプンジャリンガン郡にある、スンダ・クラパ港の第4埠頭に行き着いた。
「当初、演説の舞台は陸上のはずだった。2日前にジョコ氏はここにやって来た。彼はその船に惹かれた。最終的に我々はここに決めた」とザイトゥン氏は述べた。


普段はセメントや生活必需品を輸送している総トン数1000トンのその白い船は、バサリムという人物の所有するものであるとザイトゥン氏は述べた。ボランティアとオーナーの間の意思疎通が大きな実を結んだ。その船は、2014年大統領選挙の勝利演説を行うためにジョコ氏とユスフ・カラ氏に利用されることになった。
「この船が選ばれたことは、まったく偶然の出来事だった。船はたまたまその場所に停泊していたのだから」と一つの浅橋の方を指しながらザイトゥン氏は述べた。
 その船の借用料については、ザイトゥン氏は詳細を明かしたがらなかった。参考までに概算を示すなら、所有者がその船を貸している間の出費に見合った金額であると同氏は述べた。船上に取り付けられたディスコライトは約20メートルもの長さであった。漁船に特有な色とりどりの旗がマストにぶら下がっている太いロープにびっしりと飾られていた。
そのロープの先端には紅白の旗が掲げられていた。ドラマチックな演出として、その機帆船のデッキには緑色と白色のレーザーライトが取り付けられていた。それらのライトはディスコライトと同様、空の方向に光を向けていた。光は半径3キロメートルもの範囲の上空に映し出された。
10×30メートルほどの大きさのステージが、その船近くの陸地に建てられていた。そのステージは船のデッキ部分を撮影するために取材陣が利用していた。
その船のデッキはジョコ氏が演説に利用した。紅白旗がジョコ氏の演説場の背後に掲げられていた。

サインは三本指!
7月22日、西部インドネシア時間22時43分はボランティアの仕事のピークであった。茶色のバティックを身にまとったジョコ氏と紫色のバティックを身にまとったカラ氏は、スピードボートを利用して船のデッキにやって来た。港の従業員達や関係者一同による盛大な拍手は演説の冒頭を華やかに盛り上げた。
7月22日22時46分、ハティ・ブアナ・セティア号という名のピニシ船(注釈1)上で行われたジョコ氏の当選演説の内容は次の通りである。

 全ての者に平安あれ(アッサラーム・アライクム・ウァラマトゥラヒ・ウァバラカトゥ)
 主の平和は私たちとともに
 オーム・スワスティアストゥ
 ナモー・ブッダヤ

 同じ民族、同じ祖国の兄弟たちよ
 インドネシア共和国中央選挙管理委員会は、我々ジョコ・ウィドドとユスフ・カラの2名を2014~2019年の正副次期大統領として決定した。
 はじめに、今後5年間の国の指導における国民の信任を得るための選挙戦においてライバルとなった、プラボウォ・スビアント氏とハッタ・ラジャサ氏に感謝と最高の敬意を表したい。
 同じ民族、同じ祖国の兄弟たちよ
 この勝利は全てのインドネシア国民の勝利である。この国民の勝利が、政治的に主権を有し、経済的に自立し、文化的に個性も持ったインドネシア国家を達成し実現する道を拡大していくことを私は望んでいる。

 しかし、ここ数ヶ月の間、政治的選択の違いがまるで我々を切り離す根拠となってしまったかのようであった。我々は、多様性や違いは民主主義において必ず存在するものであることだけでなく、社会レベルにおける相互関係こそが統一インドネシアの礎となることをも理解しているはずなのにである。
 我々ジョコ・ウィドドとユスフ・カラは謙虚さを持って、同じ民族、同じ祖国の兄弟達に、統一民族としての歴史の定めに戻ることを呼びかける。統一民族であるインドネシア民族として。疎遠となっていた家族と家族、隣人と隣人、そして友人と友人の関係を再び修復するのだ。

 政治というものが明るさに満ち、その中に喜びが存在し、善き行いであり、ひとつの解放であることを、我々自身や他民族、そして何よりも我々の子孫に対して再び証明していくという責任を我々は負っているだ。
 同じ民族、同じ祖国の兄弟たちよ
 このたびの大統領選挙は、我々、そしてこの国にとって明るい展望を新たにもたらした。独立の精神と政治に対する責任感が新しい世代のあいだで次々と花開いた。長い間失われていた自主精神が今、新たな闘志によって再び生まれようとしている。大統領選は、政治を単なる政治的事象としてではなく、文化的事象としての新たな段階へと向かわせた。文化人や芸術家からベチャの運転手まで、ボランティアたちが指し示しているものは、消えることのない相互扶助の精神があるという希望を与えてくれたのである。
 相互扶助の精神こそが、インドネシア民族が逆境に直面した時に持ちこたえることを可能とするだけでなく、世界の海洋国家の軸となり、将来の政治的な大文明の軌跡となるよう発展させるものとなるのだ。
 我々がともに動くときにのみ、主権あるインドネシア、自立したインドネシア、個性あるインドネシア国家を目指す闘争が達成され、実現されるのだということを、私は信じて疑わない。
 今こそともに動く時である!
 今から農民は水田に戻る。
 漁師はふたたび海に戻る。
 子供は学校に戻る。
 商人は市場に戻る。
 労働者は工場に戻る。
 従業員は職場に戻る。
 1番も2番(注釈2 も忘れて、いざ大インドネシアに戻るのだ。
 団結によって我々は強く、強さによって我々は団結するのだ!
 サインは三本指、インドネシアを統一しよう!


 全ての者に平安あれ(アッサラーム・アライクム・ウァラマトゥラヒ・ウァバラカトゥ)
 オーム・シャンティ・シャンティ・シャンティ・オーム
 ナモー・ブッダヤ
 ムルデカ!! ムルデカ!! ムルデカ!! (独立だ!!独立だ!!独立だ!!)

 2014年7月22日
 ジョコ・ウィドド―ユスフ・カラ


注釈1)南スラウェシ地方で建造されている大型木造帆船。現在はエンジンを付けた機帆船が一般的。海洋民族として知られるブギス人が外洋航海に利用してきた。

注釈2)大統領選においてプラボウォ-ハッタ、ジョコ-カラ両陣営に振られた番号。それぞれ一本指、二本指のサインで表された。それに対して、三本指はインドネシア共和国の国家五原則パンチャシラの第3原則「インドネシアの統一」を表す。


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翻訳者:渡邉大智
記事ID:950