メタルバンドのTシャツがPKIの鎌と槌シンボルとみなされるとき

2016年05月11日付 Kompas 紙
首都警察はヘヴィメタルバンド「クリーター」の鎌と槌が描かれたTシャツを押収
首都警察はヘヴィメタルバンド「クリーター」の鎌と槌が描かれたTシャツを押収
 ジャカルタ、KOMPAS.com
 当局はこのところ、インドネシア共産党(PKI)と関連があるとされるシンボルの取り締まりを立て続けに行っている。とりわけそのシンボルは「鎌と槌」の絵柄だ。

 スラッシュメタルバンド(*註釈1)、「クリーター」のTシャツもその取り締まりを免れなかった。警察の説明によると、このドイツ出身バンドのTシャツはインドネシア共産党のシンボル、すなわち鎌と槌に酷似しており、南ジャカルタ地区のショッピングセンターのとある店で販売されていた。

 5月8日、首都警察諜報部と首都軍管区諜報部との合同チームは、その「鎌と槌」が描かれたTシャツを販売した店の店主と店員を拘束した。

 いっぽう、押収されたTシャツは、南ジャカルタ市クバヨラン・バル地区のムラワイ通りにあるブロックMスクエア内とブロックMモール内の2店で取り扱われていた。警察はこの2店から、「鎌と槌」のロゴが入った「クリーター」のTシャツ10枚を押収した。

 店主のマフディ・イスメット氏と店員のヨスフィタ氏が、「槌と鎌」のロゴ入りTシャツが店頭で見つかったことに関する詳しい取り調べのため、クバヨランバル警察署に直接連行された。

 まる一日に及ぶ徹底した取り調べののち、両者は釈放された。二人の釈放は、政府転覆罪にあたる行為または国章を侮辱する意図が両者にはなかったと警察がみなしたことによって決定した。

「つまりわれわれの結論としては、政府転覆罪にあたる行為または国章を侮辱するような行動がなかったということである。そこでわれわれは二人を釈放した。だがわれわれは今後も、くだんのTシャツの絵柄をプリントしているメーカーの捜査を続行する」とクバヨランバル警察署長アリィ・プルワント中佐は9日、ジャカルタで述べた。
 マフディ氏とヨスフィタ氏は、ここ1年にわたって販売していたTシャツがまさか問題を引き起こしうるとは分からなかった、と供述している。

 「私たちはメタルバンドの図柄入りのTシャツを販売することがやっかいなことを引き起こすとは思わなかった。これからは、事を起こすような図柄のものははおそらく売らないだろう。より慎重に選ぶということだ」とヨスフィタ氏は語った。

 ヨスフィタ氏によると、「クリーター」のバンドTシャツは市場でそれほど売れているわけではないし。この1年の間に売れたのは60枚あるうちの50枚であった。
 警察は売れ残りの10枚も押収した。

 「私たちの店ではメタル系バンドのTシャツを売っている。それで私たちは『クリーター』についてインターネットで見て、そのサイトで(CDの)カバージャケットの図柄も目にした。それから私たちは、バンドンでTシャツを注文して「クリーター」のジャケットの図柄のプリントを発注した。私たちはそのTシャツ以外にも、海外のメタル系バンドのTシャツを販売している」とヨスフィタ氏は語った。

 「クリーター」は、1982年には結成さていたたドイツのスラッシュメタル系バンドである。現在までにスラッシュメタルの先駆けの一つとなったそのバンドは、すでに12枚のアルバムを発売している。そして、「鎌と槌」が描かれたTシャツは、彼らが1990年に行ったツアーのアルバム“At The Pulse of Kapitulation(降伏の鼓動で)”のカバージャケットが元となっている。

 ジャカルタ首都警察広報部長のアウィ・スティヨノ氏は、「鎌と槌」のTシャツを販売した店の所有者に法令違反がないか、依然念入りに調査を進めていると述べる。

 同部長によると、海外の人びととインドネシア国民との間にはたしかに「鎌と槌」の絵に対する認識の違いが存在する。

「私たちが目下掘り下げているのは、このロゴがインドネシアではインドネシア共産党と同一視されたとしても、海外ではおそらく異なるであろうということだ」と同部長は述べた。

 それゆえに、同部長は、捜査官はその事件に意図的な要素があったか否かを深く追究するための時間が必要であると述べた。同部長によると、もし有力な証拠が発見されなければ、その事件の捜査は打ち切られるという。

 マフディ氏とヨスフィタ氏以外にも、ある若者が「鎌と槌」が描かれ、「ソビエト社会主義共和国連邦(CCCP)」と書いてある赤いTシャツを着ていたことで逮捕された。若者は去る8日西部インドネシア時間20時15分頃、ランプン州のサブライ広場でのコンサートに参加中に身柄を拘束された。

 その若者はバンダル・ランプン出身の、ウルダヤ・スジワンガ・アルダンゴ(23)であると、第43区ガルーダ・ヒタム歩兵隊広報長プラボウォ少佐は説明した。青年はランプン大学経済学部の五回生である。

 9日、同小佐は「その若者は友人からそのTシャツを手に入れたと供述している」と述べた。同少佐は続けて、その若者の友人は、在ロシアインドネシア共和国大使館の儀典官として働く叔父からの土産として手に入れたと述べた。

*註釈1 音楽ジャンルのひとつ。従来のヘヴィメタルよりさらなる過激さとスピード感を特徴とする。


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翻訳者:北森理佐
記事ID:2485